学部長挨拶
差異を超えて「共生社会」を構築する
Constructing a Multicultural Society by Overcoming Differences
みなさまは「都市科学」と聞くとどのようなイメージをもたれるでしょうか?国連は、2050年に世界人口の 3分の 2が都市に集中すると予測しています。これからも拡大し続ける都市には以下のような社会課題があります。農村から都市への人口移動、国際移動、開発、格差、スラムの問題、人口減少社会、高齢化社会、防災・災害、地球環境・エネルギー問題などです。また、外国の方々、障がいを持たれた方々、子どもや高齢者の方々とともに共生できるまちづくりも求められており、ジェンダーやエスニシティへの理解を深めていく必要があります。新興国・途上国の持続可能な発展のために一翼を担うことも目指しています。複雑に交錯する社会問題に向き合うためには、グローバルとローカルの視点、文理融合の視点が必要であり、横浜国立大学は 50年ぶりの新学部として 2017年 4月に都市科学部を開設しました。
本学部では、グローバル・ローカル、リスク共生、イノベーションを視座におき、歴史や文化、ジェンダー、セクシュアリティ、エスニシティ、階層といったさまざまな社会的要素を理解した上で都市を科学します。都市とはけっして無機的なものではなく、人と人がつながり、人と自然がつながり、都市を形成しています。国内外におけるフィールド実践も活発に行うことから、そこで暮らす人々に寄り添い、実践知を獲得していく仕組みがあります。都市について理解を深めるとともに、都市と関係性の深い農村、スラムなどの問題にも取り組みます。都市の孤立や排除、差別、格差といった課題を知り、解決のための学びも深めていきます。
みえるもののみならず、みえないものを見ていくこと、マクロとミクロの視点を接合させることが重要です。一見、対立軸にみえる双方の、あるいは複数ある「もののみかた」を理解し、複雑な社会を分析し、当事者の方々とともに実践していく力がこれからの社会には不可欠です。都市の課題には多くの矛盾が内包されていることから、柔軟な思考とイノベーションを起こす力、他者とつながり、協働できる力も必要です。
新型コロナウイルス感染症の拡大は、テクノロジーの利用を加速しました。しかし、そこで生きる人々の経験知や実践知、人々の記憶の中にある歴史や思いを AIで捉えることは困難です。人びとの行為と記憶の歴史的な集合体としても存在する都市を捉え、そこで生きる人々の経験知、実践知を統合した総合知をもって都市を科学していく必要があります。
わたしたちは「都市社会共生学科」「建築学科」「都市基盤学科」「環境リスク共生学科」の 4学科が連携し、文理融合の視点から総合知をもって、教育研究に取り組んで参ります。
AIに飼いならされるのではなく、AIを飼いならしていくことができる未来の都市クリエーターを生み出していくのも私たちの使命です。二項対立や矛盾、差異を超えて都市を科学し、「共生」社会をともに構築していきましょう。
都市科学部長 藤掛洋子