環境リスク共生学科 都市にまつわる諸活動
都市科学部環境リスク共生学科では、海から森、まちなかの足元まで、都市のあらゆる環境を科学の視点で探究しています。フィールドに出て、地域と協働し、データで読み解く——ここでは、教員たちが取り組む都市にまつわる多彩な活動を紹介します。
海と都市をつなぐ — 地域連携の海洋活動
地域連携のためのサイエンスカフェ「海トーク」の開催
担当教員:下出信次、髙山佳樹(生物海洋学研究室・プランクトン生態工学研究室)
臨海環境センターで行われている海洋研究の成果を地域社会に還元することと、地域社会の海洋リテラシー(海に関する基礎知識)向上を目的として、海洋教育を行う地元NPOや真鶴町と協力してサイエンスカフェを定期的に開催しています。サイエンスカフェは「うみまちラボ〜海トーク〜」と題して2021年より毎年開催し、主に臨海環境センターを利用して研究を行っている若手研究者に加えて、現在、地域で顕在化している海の課題や問題に関する専門家を招待し、研究内容を判りやすく紹介して貰っています。毎回、研究紹介の後に地域の海の課題や問題について議論する時間を長めに設定し、研究者と地域住民が「フラット」に議論する場としています。



真鶴町におけるMOBA Science Project
担当教員:髙山佳樹(プランクトン生態工学研究室)
MOBA Science Project は、真鶴半島で失われつつある「海の森(藻場)」の再生に皆で挑戦する市民科学プロジェクトです。「磯焼け」をきっかけに、子どもたちから大人まで、地域の誰もが海について学び・考え・行動できる場をつくる取り組みです。MOBA という名前には、"Manazuru Ocean, Better Action"――「真鶴の海を、より良くする行動を」との思いが込められています。横浜国立大学臨海環境センターが中心となり、地元の子どもたち、町民、漁業者、ダイバー、NPO、学生、博物館など、さまざまな立場の人々が協力しながら活動しています。藻場の再生に向けたフィールドワークや観察会、海の変化を学ぶワークショップなど、参加者自らが"海の変化を自分ごととして感じられる学び"を大切にしています。研究者が持つ科学の知見と、地域の人々が長年蓄えてきた海の経験をつなぐことで、真鶴の海を未来へ引き継ぐための新しい市民参加型の海洋プロジェクトです。




都市の生き物を知る — キャンパスとまちの生態系
自然共生型都市ランドスケープのグランドデザイン創出
担当教員:佐々木雄大(生態系評価学研究室)、鏡味麻衣子、稲垣景子、奥山尚子(環境リスク共生学科)、松行美帆子(都市基盤学科)、矢吹剣一(建築学科)
世界の主要先進国の一部では、都市化が成熟した既存都市域において人口の減少が顕著になる現象として定義される、「都市の縮退(urban shrinkage)」がますます進行することが予想されている。そのような都市では、旧来の建築資本を主流とした都市の拡大管理から、自然資本を主流とした都市の縮退管理へと都市計画の視点をシフトさせる必要がある。
本活動では横浜市を主たる対象としつつ、世界規模の都市研究を展開する。都市縮退は、都市における自然共生を実現するための空間再編のチャンスであるが、その知識基盤となる都市縮退理論が存在しない。本活動は、都市縮退の都市経済・生物多様性への帰結を可視化し、都市縮退の一般理論の構築を目標とする。



"つながり"と数理で読み解く複雑な自然
担当教員:川津一隆(複雑系生態学研究室)
生態系では、ある生き物の変化が別の生き物に波のように影響し、ときには予想外の結果を生み出すことがあります。例えば、「昆虫が減った→食べていた鳥が減る」のような直接的なものだけでなく、「外来種の増加→別の種間関係が変化→全体のバランスが崩れる」といった間接効果も重要になる場合があります。複雑系生態学研究室では、このように共存する生き物同士がつながり合ってできる生態系を「複雑系」として捉え、数理モデルやデータ解析を使って読み解いていく試みをしています。特に、観測データや公開データを分析することで生態系で見られるパターンや構造を見出し、数理モデル解析やシミュレーションを使って「もし〜なら」を検証することで、それらが自然で果たしている役割を調べるとともに、環境変化に対する生態系の「強さ」も評価しています。また、このような手法で解き明かした相互作用の構造が他の複雑ネットワークで見られるのか、またどのような働きをしているのかなどの分野横断的な研究にも挑戦しています。
人工水場(バードバス)によるキャンパスの生き物調査
担当教員:中臺亮介(社会生態情報研究室)
大学キャンパスの林の中に簡単な人工水場(バードバス)を設置し、トレイルカメラを使って水場を利用する生き物を調べます。都市の森林では自然の水場が少ないことが多く、水は鳥などの野生動物にとって重要な資源です。本調査では、水場を訪れる鳥類を中心に、リスやタヌキなどの動物の利用状況を記録し、キャンパスにどのような生き物が暮らしているのかを明らかにします。身近な自然の中で生き物の行動や多様性を観察し、都市の自然環境について理解を深めることを目的としています。
都市に生まれる小さな生態系 ― コケに棲むトビムシの研究
担当教員:中森泰三(土壌生物学研究室)
都会のアスファルトやコンクリートで覆われた地面には、生き物がいないように見えるかもしれません。しかし、道路の目地やコンクリートの割れ目、壁のすき間、ベンチの下、吹き溜まりにはコケがぽつんと生え、そこに小さな動物たちがひっそりと暮らしています。肉眼ではほとんど見えませんが、確かに存在しています。街のあちこちに、隠れた小さな世界が広がっています。
私たちは、都市のコケに棲むトビムシの多様性や生態を調べています。舗装された地表は乾燥しやすく、日中は熱く夜は冷える、過酷な環境です。そんな場所のコケに、どの種が棲めるのか、どのように乾燥に耐えているのか。小さな体に秘められた工夫や戦略を見つけるのが、私たちの研究です。
まちなかのコケに棲む小さな生き物たちの世界は、驚きと発見に満ちています。「え、こんなところに生き物が?」という気づきから、探究が始まります。


都市の環境リスクに挑む — 土壌・地下水の保全
秦野市における小規模事業所に適した土壌汚染浄化技術の開発と適用
担当教員:小林剛(環境安全化学研究室)
テトラクロロエチレンやトリクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物(CVOC)は、ドライクリーニングや金属部品の脱脂洗浄などに広く利用されてきました。しかし近年、これらの化学物質による土壌や地下水の汚染が各地で見つかっています。特に中小規模の事業所では、汚染調査が十分に行われていないケースも少なくありません。その理由として、汚染が確認された場合に掘削除去などの高額な対策費用が発生することや、敷地が狭く営業を続けながら浄化を行うことが難しいことが挙げられます。しかし、調査を行わないまま汚染が放置されると、地下水などを通じて汚染が広がるおそれがあります。
本研究室では、先導的に地下水汚染対策に取り組む秦野市と共同で、中小規模事業所を対象に、土壌中のガスを吸引して汚染物質を除去する「土壌ガス吸引法」を用いた浄化技術に着目して、小規模な事業所でも実施しやすい、効率的で現実的な小規模土壌ガス吸引浄化装置を作成し、実際の事業所で試行運転をし、より持続可能な汚染対策手法について検討しています。また、地下水保全審議会の運営や各種地下水保全のためのイベントにも協力しています。


- 環境リスク共生学科については、学科紹介をご覧ください。

